カルチャー

1960年代にファッション革命を起こしたマリー・クワント 日本初の回顧展が1月29日まで開催中

「マリー・クワント展」ポスター
「マリー・クワント展」ポスター

 1960年代の若者発の文化「スウィンギング・ロンドン」の顔であり、ビートルズらと並び称されることもある、ファッション・デザイナーのマリー・クワント。彼女の日本初の回顧展がBunkamura ザ・ミュージアム(東急文化村・東京)にて来年1月29日(日)まで開催中だ。

 西洋の伝統や階級文化に縛られた旧来の価値観とは異なる、若々しさや躍動感にあふれるデザインを世に送り出したクワントは、ミニスカートやタイツなど、今日(こんにち)当たり前になっているアイテムを広く浸透させたことで知られる。

 衣服から化粧品、インテリアまでのライフスタイル全般に及んだ個性的なクリエーションもさることながら、量産化時代の波に乗った世界的なブランド展開や、自らファッションアイコンとなる広報戦略もメディアに注目され、時代を先導した。

 本展では、ビクトリア・アンド・アルバート博物館からの衣服およそ100点を中心に、小物や写真資料、映像などで、1955~75年のクワントのデザイナーとしての業績と、時代を切り開いた起業家としての歩みを辿っている。

 1930年、ロンドン近郊で教師の両親のもとに生まれたマリー・クワントは、子どもの頃から大のファッション好きだった。ゴールドスミス・カレッジでは美術を学び、伴侶となるアレキサンダーにも出会う。卒業後は高級帽子店で働くが、ほどなくして退職。55年、ロンドンのキングス・ロードに、アレキサンダーらとブティック「バザー」を開く。

 パリの高級注文服がファッションの中心だった時代、若者向けのアイテムが並ぶ「バザー」は瞬く間に大人気となる。目を引くロゴ、奇抜なウィンドーディスプレー、大音量のジャズがかかり、ジョン・レノンらロンドンの有名人もこぞって来店した。

 クワントは言った。「言葉のアクセントや階級? 関係ないわ、モッズだから」。ちなみに「モッズ」とは、イギリスの若い労働者の間で50~60年代にかけて流行したスタイルで、細身のシルエットや中性的な装いなどが特徴。

≪ドレス「ミス・マフェット」を着るパティ・ボイドとローリングストーンズ≫ 1964年 Photograph by John French ⓒJohn French・Victoria and Albert Museum、London
≪ドレス「ミス・マフェット」を着るパティ・ボイドとローリングストーンズ≫ 1964年 Photograph by John French ⓒJohn French・Victoria and Albert Museum、London

 「バザー」を発信源としてクワントが生み出した若者のためのファッションは、海を越えアメリカでも評判になる。60年代にはアメリカ屈指の大手百貨店チェーン「J.C.ペニー」や大手衣料メーカー「ピューリタン・ファッションズ」から依頼を受けて、既製服のデザインを提供。より多くの人々へ届けるための大量生産というクワントの構想が実現する。

 一方、クワントは63年、「ジンジャー・グループ」という、それまでよりも低価格で若々しいラインを立ち上げる。流行色とはかけ離れたジンジャー(オレンジ・ブラウン)やマスタード・イエローなどの色彩と、トータルコーディネートのしやすさが特徴で、型破りなショーやファッション誌を通して大々的に宣伝された。

 クワントはグローバル展開に際して、斬新なビジネス手法を次々と採用する。66年に輸出への貢献で大英帝国勲章を受章した時も、帽子から靴、ドレスに至るまで自分でデザインしたアイテムをまとい、世界中の新聞の一面で取り上げられた。また、雨に濡れても平気なファッションというコンセプトで、63年に発表したPVC(ポリ塩化ビニール)を使った「ウェット・コレクション」は大反響を巻き起こした。

≪ベストとショートパンツを着るツイッギー≫ 1966年 ⓒPhotograph Terence Donovan、courtesy Terence Donovan Archive. The Sunday Times、 23 October 1966
≪ベストとショートパンツを着るツイッギー≫ 1966年 ⓒPhotograph Terence Donovan、courtesy Terence Donovan Archive. The Sunday Times、 23 October 1966

 クワントは、旧態依然とした性別の役割や社会階層にとらわれない、若い女性のためのデザインの発信に情熱を注ぐ。その普及に最も貢献したとされるミニスカートはもちろん、紳士服や軍服、スポーツウェア、女児のスモックや遊び着にインスピレーションを得てデザインされた衣服は、そうした信念に基づいている。

 60年代後半のデザインは、あどけなさとユニセックス性が追求され、宣伝にツィッギーら中性的なモデルを起用したことでも話題となり大ヒット。玩具メーカーの依頼で73年に発表した着せ替えできる「デイジー人形」にも、自由なデザインが採用されている。

≪マリー・クワントと、ヘアスタイリングを担当していたヴィダル・サスーン≫ 1964年 ⓒRonald Dumont・Daily Express・Hulton Archive・Getty Images
≪マリー・クワントと、ヘアスタイリングを担当していたヴィダル・サスーン≫ 1964年 ⓒRonald Dumont・Daily Express・Hulton Archive・Getty Images

 「マリー・クワント展」の開館時間は午前10時から午後6時で、入館は午後5時半まで。毎週金・土曜日は午後9時までで、入館は午後8時半まで。12月31日(土)は午後6時まで。休館日は1月1日(日・祝)。入館料は一般1700円、大学・高校生1000円、中学・小学生700円。公式図録(グラフィック社・東京)も販売中。価格は3960円。 詳細は公式サイトで。