はばたけラボ

【はばたけラボ・先輩に聞く】 修験道の僧侶 田中佑昌さん 未来をつなぐために必要なのは自然からいただく力、つながり

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。

 ユネスコの世界遺産でもある「紀伊山地の霊場と参詣道」にある金峯山寺(奈良県吉野町)の僧侶・田中佑昌さんに、この道を選んだ理由、自然の持つ力を尊び、祈りを捧げることのすばらしさを聞いた。

金峯山寺の僧侶 田中佑昌さん

Q1:どんな子どもでしたか。吉野・大峯との出会いは。

 京都にある金峯山寺の末寺に生まれ、僧侶の父は金峯山寺に単身赴任するような形で務めていました。幼い頃から夏休みは吉野に行き、6歳で父に連れられ初めて大峯山に登って以降は毎夏、自然に山に向かっていましたね。山で修験に触れつつ、法要の手伝いもしていましたが、親への反発もあり、将来お坊さんを目指す気持ちは全くなかった。学校の先生になりたいと思っていたんです。

Q2:僧侶になる気持ちが芽生えたのは。

 高卒後の進路を考える時、「しっかり勉強した上で教師になりたいならそれでもいい。ただ何も知らずに、ただ僧侶になりたくないと言うのは違うのではないか」との思いがよぎり、自分自身が学んで自分で未来を決めようと進学しました。書道や言語学など国語の先生になる勉強ばかりしていましたが、20歳を過ぎた頃、修験道最奥の修行とされる「大峯奥駈修行」に行く機会がありました。奥駈修行は5泊6日で吉野から熊野までを登拝します。6歳から大峯山に登っているし、参加者で一番若いから余裕だと思っていたのに実際はボロボロ。2日目には体があれ?となり、3日目は足が痛くて泣きながら、ちょっと歩いてコケて、またコケて。ただ、心の中はすごく気持ちよく、普段の悩みがなくなっていく。多くの山伏さんに出会い、先輩にも励まされながら修行を終えた時、この集団に入りたい、いろいろな修行をして一緒に祈りたいと思ったのです。迷いなく僧侶の道に進みました。

2026年5月13日、金峯山寺の紺紙金字経や仏像なども出陳した、奈良国立博物館の特別展に合わせて行われた大護摩供で法弓の儀を担った田中さん

Q3:僧侶としてどんな仕事をしてきましたか。

 住み込みの修行僧(学僧)からスタートしました。早朝5時に御堂を開け、仏様の場所を掃除し、お供えをしたらお祈りをします。その後、護摩の修法を手伝い、片づけて掃除。お供えを下げ、またお祈りです。そうした日々の修行の中に、月3回ほどは法要があり、御開帳など大きな行事が入る時も。閉門して夕飯を食べ、さらにお経の勉強や次の日の行事に必要な物の用意をします。山伏の法具であるほら貝も、上手に吹けるようになるまでは夜の時間に自主練しました。全てを終えたら風呂に入って寝て翌日も早起き。体調が悪い時はしんどかったですが、やめたい、逃げたいとは思いませんでした。今は教学部主事として蔵王堂(国宝)にいて、参拝者と接したり祈禱(きとう)をしたりするほか、後輩の修行僧の面倒もみます。

田中さんがふだん、お勤めや祈祷(きとう)を行っている金峯山寺の蔵王堂(金峯山寺提供)

Q4:修験道の魅力って。

 金峯山寺の僧侶は約20人で、年齢も経歴もまちまち。最近は寺で育った人、寺ではない家に育った人、合わせて2人が修行僧になりました。修験道の寺は出家した僧侶だけで成り立つのでなく、20人のほかに、普段は他の仕事をして時間をつくって修行に入る在家の修験者もいます。いきなり寺に入って頭を丸めたりするような、ガチガチなことをしなくてもできる信仰で、悩んでいたらちょっと山に行って自然と触れ合いませんか、自分を見つめ直しに一緒に行きませんか、というところから始まるのです。今日あるものが雨が降れば明日は変わっていることもある山で、自然と触れ合い、いろいろなものを見つめる。そこに整えられた仏像はないですが、目に見えるもの全てが実は神仏であり、樹齢何百年の木や日の光で神々しい場所に、思わず触れたくなる。1300年前から多くの人が歩いた道を踏みしめ、人のために祈りながら、自分も多くの方や自然にいろいろなものをいただいているということを体と心で感じて「ありがとう」と思える場所があるのです。

大峯奥駈修行の道中、ほら貝を吹く田中さん(右から1人目)(金峯山寺提供)

Q5:奥駈修行をすると変わる?

 山伏は、普段は別の仕事をしている人が8割です。自分は僧侶となり寺に入りました。他の人は、それはしたくてもできないから普段は違う仕事をして休みをとって修行をしていますが、祈りによって「人のために何かをする」という思いは一緒。奥駈修行でいろいろな意見が聞けるのは非常に面白く、周りの人の動きを見て、神仏や自然との接し方などを見つめ直し、また頑張っていこうと思えます。

 ただ、修行に参加すると「山を歩いた自分は偉い」となる人が多いです。修行をやり切ったのは偉いのですが、休む間のフォローをお願いした誰か、自分を送り出してくれた人がいますよね。その人たちがいて社会が成り立っている。自分だけいろいろな力をいただいて授かるというのでなく、気づかせていただいたことを返していってほしいと思います。

断崖絶壁から身を乗り出して吊るされることで知られる厳しい修行「西の覗」で修験者の命綱を持つ田中さん(左から1人目)(金峯山寺提供)

番外Q:未来をつないでいくために必要なものは。

 新型コロナ禍で、人は人同士が会えない経験を乗り越えました。吉野・大峯も山奥にありますが、離れていても皆がつながっているということを忘れずに、日々過ごしていたらいいのではないでしょうか。それを意識するために、金峯山寺では1日1回、正午に手を合わせる「とも祈り」を呼び掛けています。決まった時間にできないこともあり、僕も正午に祈れないことも。でも、気持ちがつながっていれば、心はバラバラにはならない。時間や場所が違っても、ともに祈ることで神仏は常に周りにいていただいているんですね。いろいろなものに感謝して、それを人に伝えていくことができれば、それでいいのではないかと思います。

蔵王堂上層から臨む、桜の咲き誇る吉野山(金峯山寺提供)

プロフィール 田中 佑昌(たなか・ゆうしょう)/1990年、吉野町に生まれ、京都で育つ。龍谷大学を卒業後、金峯山寺の修行僧に。現在は教学部主事として日々の寺務に携わる。毎年、奥駈修行などに参加し、修験道の実践を心掛けている。余暇は映画鑑賞が楽しみ。


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