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【インタビュー】『太陽とボレロ』石丸幹二「水谷豊監督は、まるで太陽のような存在で、この映画のタイトルはまさに水谷さんのことではないかと思いました」

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 俳優・水谷豊の監督第3作『太陽とボレロ』が6月3日から公開される。ある地方都市のアマチュア交響楽団「弥生交響楽団」の解散コンサートまでの道のりを、さまざまな人間模様を交えながら描いた本作で、楽団を支える中古車販売センター社長・鶴間芳文を演じた石丸幹二に、水谷監督や映画への思い、クラシック音楽などについて聞いた。

鶴間芳文役の石丸幹二(スタイリスト:土田拓郎/ヘアメーク:中島康平) (C)エンタメOVO

-まず、今回の出演に至った経緯を教えてください。

 ドラマ「相棒」で水谷さんと共演させていただいたのが、きっかけかもしれません。そのとき、いろいろなお話の中で、映画を撮っていらっしゃることを聞き、「僕がやる役があればぜひ」と、一方的にアピールをしました。すると翌年、水谷さんが「今度オーケストラの話の映画を撮るんだけど、出てみない」と声を掛けてくださり、もともと音楽の人間なので、積極的に「参加します」ということで、この話が進んでいきました。それがコロナ前のことです。

-では、随分前から始動していたのですね。

 おととしぐらいに始まって、その後コロナで撮影が延期になったりもしましたが、それぞれの俳優さんたちがどの楽器かも決まっていたので、レッスンが始まっていました。だから、撮影ができない間もずっと楽器に触れられたので、結果的には、皆「それがかえってよかった。楽器と触れ合う時間が増えた」と言っていました。その間、僕の役も水谷さんがいろいろと書き加えてくださったみたいで、理子(檀れい)さんの前ですてきにサックスを吹くシーンが新たに入っていました。よかったと思いました。

-水谷豊さんの監督としての印象は? 演出についてはどのように感じましたか。

 水谷さんのお人柄そのものなんですが、ご自分が俳優をなさっているからか、非常に、僕たちパフォーマーに寄り添った演出をされます。なおかつ脚本家でもあるので、現場で僕たちに向き合った結果、その場でせりふを変更したりと、臨機応変に対応してらっしゃいました。ジョークを交えたり、おっしゃることもとてもチャーミングで、時々、ご自分でやってみせてくださることもあったので、それでこの映画の狙いが分かったりもしました。とにかく撮影中はとても楽しかったです。まるで太陽のような存在で、この映画のタイトルはまさに水谷さんのことではないかと思いました(笑)。

-今回演じた鶴間という役は、割と二枚目半なキャラクターでしたが、どのように考えて演じましたか。

 最初は二枚目でやろうと思っていました(笑)。そこに水谷さんから、「こういうことをしながらそのせりふを言ってみて」という具体的な指示が入ります。僕は二枚目のつもりで言っているんですけど、そこにおかしなアクションが加わる。つまり、大真面目に必死になって二枚目をやっているところが、二枚目半に見えたり、三枚目に見えたりするんですね。水谷さんのさじ加減一つで、面白いシーンになっているんです。

-檀れいさんが演じた楽団の主宰者の理子とは、学生時代の先輩後輩で恋人未満という、もどかしい関係性でしたが、どのように考えて演じましたか。

 鶴間は彼女にとても好意を持っています。まあ独身同士ですから、ひょっとしたらこの後、2人は幸せになるのかもしれないと思わせるような感じで演じていました。若い人の恋愛には駆け引きがあると思いますが、それとは違って、同じものに向き合って走っていると、何か同じ空気を感じるという。互いに居心地がよくて、その結果、一緒にいたいねと思えるような関係を、2人とも意識しながら演じていたと思います。

 例えば、車の中で背中を向け合いながら会話をするシーンがありますが、恋人同士ならそうはなりませんよね。だから夫婦かよと(笑)。でも、それがこの2人らしいところです。そういうことを、水谷さんが、その場で「こっち向いてみて」というふうにおっしゃるんです。その結果、地に足のついた人間関係が浮き上がってくるという。これが“水谷マジック”です。

-先ほど話に出たサックスを吹くシーンですが、東京音楽大学時代にサックスを専攻していたそうですから、苦労はなく、むしろ楽しかったのでは?

 今回演奏したのは、吹いたことがない曲でした。ただ、「サックスが吹けるんです」と水谷さんにアピールをしたときに、「どういう曲が合うと思う?」と聞かれたので、僕からプレゼンをしました。オペラ「カルメン」の「花の歌」という、ホセからカルメンに向けた愛の歌なんです。それをこのシーンに入れれば、鶴間が理子に抱く淡い思いを体現できるかもしれないと思って提案しました。この映画では、どの奏者たちも吹き替えなしで演奏をしています。だからこそ、鶴間も吹き替えなしでやるべきだと思いました。楽しく、苦しく、自分を追い込み、たくさん練習をしました。