カルチャー

全国の近代化遺産を紹介するプロモーションイベント 「近代化遺産フォーラム 2022」開催

 幕末から第二次世界大戦までの期間に近代的手法で建設され、日本の発展に貢献した、産業、交通、土木に関する建造物が「近代化遺産」。今もなお現役で利用されている施設もあるが、多くは地域の観光資源や文化芸術の支援施設として、第二の人生を送っている。

 近代化遺産の保存・活用や、伝統産業などを生かした地域振興、歴史的町並みの保存、地域資源を生かした新たな文化的な観光の創出を目的に設立された団体が全国近代化遺産活用連絡協議会(以下、全近)。全近では、近代化遺産の価値や魅力にふれてもらうためのイベント「近代化遺産フォーラム」を開催している。これは、日本博主催・共催型プロジェクト「日本の近代化遺産 -自然の力と美を引き出す技-」の一環として行われるもので、近代化遺産の魅力をPRし、近代化遺産全国一斉公開の情報を広く伝えるため、近代化遺産に関する展示や専門家による講演会・トークセッションなどが行われる。

 3年連続の開催となる本年度は、東京都と山口県下関市の2都市開催となり、9月8〜11日に、都内プロモーションイベント「近代化遺産フォーラム2022」が東京都千代田区で開催された。

 「近代化遺産フォーラム 2022」のオープニングセレモニーでは、全国近代化遺産活用連絡協議会会長で舞鶴市長の多々見良三氏、文化庁文化資源活用課北河大次郎主任文化財調査官、日本芸術文化振興会日本博事務局根来恭子事務局長によるテープカットセレモニーが執り行われた。
 開会にあたって、全近・多々見会長は「地域のシンボルとしての近代化遺産は街づくりのコンテンツの一つとして認知され始めている」とあいさつ。

─基調講演「近代化遺産を活かしたまちづくりの展望」

 続いて立命館大学矢谷明也客員教授による「近代化遺産を活かしたまちづくりの展望」と題した基調講演が行われた。矢谷客員教授は、「近代化遺産のすごさは、明治維新に雇い入れた西洋・欧米の建築技術を持つ“お雇い外国人”に頼らず行った日本人による西洋建築教育で、これを行った日本人たちにも着目して欲しい」と述べた。

 その上で、木造建築が主流だった幕末期を経て、明治期以降における、京都博物館、日本銀行本店、赤坂迎賓館など日本人による建築技術の進歩について解説。これほどの大きな節目は、明治以降、現在まで存在しないと語った。

 さらに近代化遺産の象徴であるれんが造りは、明治期から約50年間しか建築に取り入れられなかったとして、その後の震災や空襲を乗り越えて残存するれんが建築は、歴史的価値をふまえた街の顔として大切に保存しなければならないと力説した。

 また、矢谷客員教授は、まだ気付かれていない近代化遺産の発掘が重要だと言及し、住民がどのように街を見て、何が街の顔になるかを考えることも重要だと話した。そして近代化遺産は、観光客のためではなく、その地域に住む住民のために保存することを考えなければ、観光としてのまちづくりは上手く行かないだろうと展開した。

 さらに近代化遺産の保存形式について話がおよぶと、青森県弘前市の旧第八師団長官舎(弘前市長公舎)をスターバックスコーヒー弘前公園前店として再生利用した成功事例などを挙げ、街の顔として生まれ変わった近代化遺産の例を紹介した。

 また近代化遺産の発見と修復は、街としての個性や価値を確立し、観光PR戦略の一つになりうると提案。その上で今まで守り続けてきた近代化遺産を今後もいかに維持していくかが重要で、全近はその使命を担っていると講演を締め括った。

 このほか会場では「近代化遺産のある街紹介コーナー」として富岡市(群馬県)の 富岡製糸場に関する書籍やシルク製品、大牟田市(福岡県)三池炭鉱の石炭や炭鉱マンが使用したヘルメット、キャップランプなど、近代化遺産を有する8市(ほか、舞鶴市、朝来市、鳥取市、新居浜市、佐世保市、桑名市)の近代化遺産に関する物品や、施設内などで販売されているご当地限定グッズの展示やクイズラリーも行われた。

─全国12市町で開催、近代化遺産の参加型イベント

 10月21日~30日には、下関プロモーションイベントも開催され、唐戸地区の近代化遺産を会場にパネル展示などが行われる。また10月1日〜11月30日には、通常見学できない全国の近代化遺産を一般公開する「近代化遺産全国一斉公開2022」を開催。さらには、全国12市町の近代化遺産で、体験ツアーや施設公開などを行う参加型のイベントも11月にかけて開催される。イベントの詳細は全近のウェブサイトで確認を。

・日本の近代化遺産-自然の力と美を引き出す技-
https://www.zenkin.jp/news/5849