カルチャー

追悼――日本の「ジョン・レノン」吉井守さん

THE PARROTSのポストカード。サングラスをしているのが吉井守さん。
THE PARROTSのポストカード。サングラスをしているのが吉井守さん。

 「今日はどんどん飲んでください。酔えば酔うほど、酩酊状態になればなるほど「パロッツ」が本物のビートルズに見えてきます」。

 これはビートルズのトリビュート・バンド「パロッツ」のリーダーでジョン・レノン役だった吉井守さんの決め台詞ならぬ決めジョークだった。

 「チャッピー」の愛称で親しまれた吉井さんが9月12日、京都に滞在中、急性心筋梗塞で亡くなった。享年62。

 吉井さん率いたパロッツは世界的にも有名なビートルズのコピーならぬトリビュート・バンドで、東京・六本木のライブハウス「アビーロード」などで活動してきた。

 ポール・マッカートニーはツアーなどで世界中を回っている中、行く先々で現地の代表的なビートルズのコピーバンドを呼んで演奏を聴いていた。そのポールが来日した際に「日本代表」として選んだのがパロッツだった。

 2013年11月20日、11年ぶりの来日を果たしたポールはオフだったその夜、宿泊ホテル「ザ・ペニンシュラ東京」の最上階にあるラウンジでごく内輪のパーティーを催した。その日はナンシー夫人の誕生日で、宴の終盤に用意されたのがパロッツの生演奏だった。なんと本物のビートルの前でパロッツは19曲のビートルズ・ナンバーを演奏。

 その18曲目の「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」ではついにポールがステージにあがり、愛妻のためにパロッツとともに熱唱するハプニングも。ステージにあがる時、ポールは吉井さんのほうを向いて「ハイ・ジョン」と声をかけたという。

 吉井さんのビートルズとの出会いは小学生のころ。高校1年でビートルズのコピーバンドに入り、それからはジョン・レノン役一筋だったという。亡くなるまで、プロとしてのジョン役のキャリアは35年以上に及んだ。

 ジョン役としてはこだわりがあった。「ジョンの特徴は、拍子の裏にアクセントを置くビート感にあると思う。『タンタン』ではなく『ンタンタ』といった具合だ」、「ジョンをコピーする人の多くが、ギターを抱えて足をガニマタに開き、上から下へリズムを取っているが、下から上に乗るのがコツといえる」と吉井さんは、こだわりを持ってジョン役を務めた。

 吉井さんの「ツイスト・アンド・シャウト」や「ロック・アンド・ロール・ミュージック」などのロックの歌声は迫力満点だった。一方、「アスク・ミー・ホワイ」や「ベイビー・イッツ・ユー」などのソフトな歌も魅力的だった。「レイン」や「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」ではジョン特有の粘っこいボーカルだった。

 歌いまわしにもこだわりがあった。例えば「ひとりぼっちのあいつ」の歌詞の一部「The world is at your command」の発音は「ワールズ・アッチャ・コーマン(ドゥ)」と聞こえた。「カム・トゥゲザー」の間奏では「Stop the war」と叫び、呼びかけた。

 「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」ではエリック・クラプトンがゲスト参加で演奏していたギターソロを吉井さんが担当、オリジナルに忠実にやりつつ、彼ならではの遊びも交えて、毎晩のように聴衆を熱狂させた。

 パロッツの結成は90年。今は亡き東京・六本木のライブハウス「キャバーン・クラブ」などを経て、96年からは「アビーロード」に本拠地を移した。

吉井さん、ポール役の野口「ゴードン」威、ジョージ・ハリスン役の松山「バンビーノ」明弘、リンゴ・スター役の杉野「トーマス」智史、キーボードの松山「フーミン」文哉からなるパロッツの名声は世界中に響き渡っていたといっても過言ではないだろう。

 キャロライン・ケネディ前米駐日大使も大ファンだった。

 そして彼らはミュージシャン仲間からも尊敬される「ミュージシャンズ・ミュージシャン」でもあった。アビーロードを訪れたミュージシャンには、TOTO、ボズ・スキャッグス、ボン・ジョビ、スティング、ジェフ・ベック、クリストファー・クロス、オリビア・ニュートン・ジョン、エイドリアン・ブリュー、アークティック・モンキーズ、クイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジ、ボビー・コールドウェルらがいる。

 ポールのバックバンドでギターを担当しているブライアン・レイはツイッターで次のように吉井さんの死を悼んだ。「私はパロッツのチャッピー吉井さんが亡くなられたことを知り深く悲しんでいる。彼は献身的な人間であるとともに熱心なミュージシャンであり、大きな心を持っていた」。

 合掌。

(文・桑原亘之介)

桑原亘之介

kuwabara.konosuke

1963年 東京都生まれ。ビートルズを初めて聴き、ファンになってから40年近くになる。時が経っても彼らの歌たちの輝きは衰えるどころか、ますます光を放ち、人生の大きな支えであり続けている。誤解を恐れずにいえば、私にとってビートルズとは「宗教」のようなものなのである。それは、幸せなときも、辛く涙したいときでも、いつでも心にあり、人生の道標であり、指針であり、心のよりどころであり、目標であり続けているからだ。
 本コラムは、ビートルズそして4人のビートルたちが宗教や神や信仰や真理や愛などについてどうとらえていたのかを考え、そこから何かを学べないかというささやかな試みである。時にはニュースなビートルズ、エッチなビートルズ?もお届けしたい。