カルチャー

「脱炭素社会」に向けて地域密着の金融機関にできること 東京都信用組合協会設立70年でシンポジウム開催

シンポジウム「信用組合業界における脱炭素社会への取り組みに向けて」登壇者たち
シンポジウム「信用組合業界における脱炭素社会への取り組みに向けて」登壇者たち

 地球温暖化の進行に伴い世界各国で海面の上昇や自然災害の激甚化が指摘される中、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「脱炭素」「カーボンニュートラル」の実現に向けた取り組みは、世界共通の喫緊の課題となっている。日本でも、政府が2020年10月に、2050年までのカーボンニュートラルを目指すことを宣言。さまざまな政策、各業界を総動員して対応を進めることとしている。

 そのような中、都内の信用組合の協会組織である東京都信用組合協会(会長・柳沢祥二氏)は、シンポジウム「信用組合業界における脱炭素社会への取り組みに向けて」をこのほど東京・千代田区で開催した。同協会が今年設立70周年を迎え、地域に密着した金融機関として今後も事業を展開していく上で、脱炭素社会の実現に向けた方向性を考えるきっかけにすることが目的。

 基調講演「未来につながる『持続可能な企業』を社員とともに~脱炭酸社会の到来に向けて~」では、さいたま市のメッキ会社「日本電鍍工業」代表取締役社長の伊藤麻美氏が登壇。同社を創業した父親の亡き後、倒産寸前の状態に陥ってしまった経営を、30代前半での社長就任後、立て直した経験を紹介。税理士に「死に体」とすら表現された会社を立て直そうと必死になった根底にあったのは「社員とその子どもたちのために会社を存続させなければ」という思いだったという。“サステナブルな会社”として大事にしていることとして、「従業員を育て、経営者に何かあっても存続できる会社にする」「時代に合った会社の在り方を見据える」「目先の利益ばかりでなく未来への投資を重視する」などを挙げた。

日本電鍍工業代表取締役社長 伊藤麻美氏
日本電鍍工業代表取締役社長 伊藤麻美氏

 後半は、元日本銀行金融高度化センター副所長で金融経営研究所所長の山口省蔵氏をコーディネーターに、パネルディスカッションを展開。「Fridays For Future Japan(フライデーズ・フォー・フューチャー・ジャパン)」を立ち上げて環境問題に取り組む鹿児島大水産学部3年の中村涼夏さんは、気候変動対策の強化を求める活動を紹介した。現在300人ほどで行っている活動をたった2人で始めた頃から今までの3~4年でも、脱炭素問題に対する世の中の関心が高まっているのを感じるという。中村さんは、2021年4月の衆議院環境委員会に参考人として出席し、意見を述べた経験も持つ。個々人が脱炭素問題を“自分事”ととらえて行動変容を起こすだけでなく、社会全体が命に対する危機感を持って迅速に取り組むために変わる必要性を訴えた。また、地方を拠点にした活動の声の伝わりにくさにも触れ、「危機感を持って叫んでいる若者たちの声を届けてほしい」と話した。

パネルディスカッションでコーディネーターを務めた山口省蔵氏
パネルディスカッションでコーディネーターを務めた山口省蔵氏
「Fridays For Future Japan」を立ち上げて環境問題の取り組む鹿児島大水産学部3年の中村涼夏さん
「Fridays For Future Japan」を立ち上げて環境問題の取り組む鹿児島大水産学部3年の中村涼夏さん

信用組合業界としての脱炭素問題への向き合い方について、同協会の柳澤会長は、「ビジネスチャンスとしてとらえる」視点を挙げた。また、危機感、スピード感を持って取り組むために、業界として問題意識を発信していきたいとした。

女優で全信中協ポスターイメージガールを務める佐藤奈織美さんは、信用組合という存在について「身近にある地域に密着した金融機関。何かあった時にすぐに相談できる親近感があり、家族のような存在」とコメント。

 柳澤氏は、「脱炭素の必要性や意義について、信用組合の経営者が職員と意識を共有できて初めて、この問題に企業として取り組み、“家族”のような存在として相談を受けることが可能になる」と指摘。伊藤氏は、「信用組合と顧客が本音を言い合える関係であってほしい。信用組合には、その企業が未来を見据えているか、厳しい目で見てほしい」と注文した。

女優の佐藤奈織美さん(左)と東京都信用組合協会会長の柳沢祥二氏
女優の佐藤奈織美さん(左)と東京都信用組合協会会長の柳沢祥二氏

 参加した信用組合関係者たちからは、「子どもや孫の時代にではなく、今の自分の時代に真剣に考えなければいけない問題だと思った」「顧客を1軒1軒訪問する中でも、脱炭素の問題を訴えていくことも大事ではないかと感じた」「2050年ではなく、2030年目標で考えなければいけないと感じた」などの声が上がった。中村さんは「熱しやすく冷めやすいテーマでもあるので、皆さんと思いを持続させていきたい」と話した。