社会

北朝鮮のミサイル発射やロシアのウクライナ侵攻で高まる、核シェルターへの関心 茨城県の中小企業が開発した製品が6台売却済み

核シェルター外観(直エンジニアリング提供)。
核シェルター外観(直エンジニアリング提供)。

 「何が起こるか分からない。起こってからでは遅い・・・」

 それは一人の開発者の危機感から始まった。

 「自分の性格上、常に地震や戦争が起きるのではないかという危機感を持ってきました。弊社のノウハウや技術を使って何か命を守るものが出来ないかというところからスタートしました」と板金加工会社「直エンジニアリング」(茨城県結城市)の古谷野善光(こやの・よしみつ)専務は語る。

 スイスやイスラエルでは人口1人当たり核シェルター普及率が100%だが、それは地下のコンクリート型シェルターで、参考にならないと古谷野氏はいう。「日本の風土では数メートル掘っただけで水が出るし、値段も2,000万円くらいになってしまう」。

 そのため、古谷野氏は「うちの場合、地上設置型核シェルターを開発することにして、一般住宅の庭先に置けるタイプにしたのです」と述べた。

 広さは8平方メートル、重さは2.3トン、壁の厚さはおよそ8センチ。壁の外側は鉄、防音材を挟んで、内側は放射線を低減するための鉛板が張られている。
 古谷野氏によれば、核の直撃は想定していない。

 「逆にいえば、直撃に耐えられるシェルターはあるのか? 作れても5000万円くらいになる。買えないものを作っても仕方ない」

 核爆弾の使用後に放出される放射性物質により汚染された空気で被ばくすることを防ぎ、有毒ガスの侵入を防ぐため、外気を浄化して取り込む空気ろ過装置を備えている。

 電源もあり、エアコンや電源も備えるとともに、断熱・防音効果もあることから、趣味の作業スペースや楽器演奏場所としても活用できるとしている。設置した4台のカメラによって外部の様子を室内モニターで確認することもできる。

ph2 核シェルターの内部(直エンジニアリング提供)。
核シェルターの内部(直エンジニアリング提供)。

 日本は唯一の被爆国だが、核シェルターの普及率はわずか0.02%。2011年の東日本大震災では福島第一原発からの放射線汚染を経験した。しかし今、電力不足問題の解決のため、全国的に原子力発電所の再稼働が進められようとしている。

 また、日本は北朝鮮、中国、ロシアという核保有国が近い。
 中でも北朝鮮は2006年に初めての核実験を行うとともに、2017年にはミサイルを発射し、それが日本上空を通過した。2022年10月にも同国が発射した弾道ミサイルが青森県上空を通過し、全国瞬時警報システム「Jアラート」が鳴り響いた。

 11月初めにもミサイルが数発発射されて、Jアラートが宮城、山形、青森の3県に出された(東京の島しょ部には誤って出された)。結果として「日本上空で消失した」(浜田靖一防衛相)ものの、国民の間では危機感が一気に高まった。

 さらに今年2月のロシアによるウクライナ侵攻で始まった戦争では、プーチン露大統領は核使用の可能性を示唆することによる脅しを繰り返している。

 昨年12月に発売された直エンジニアリング開発の一般家庭普及型防災核シェルター「CRISIS-01」は、そうした危機のたびに注目度が高まっていき、一台660万円(税込み)という価格にも関わらず、「これまでに6台販売いたしました」(古谷野氏)。同社本社には2台展示されており、1日1組くらい見学にきているという。

 購入にあたっては、銀行の核シェルターローンも利用できる。現在はつくば銀行が提供しているが、「これから他の銀行にも広がっていくだろう」(古谷野氏)という。

 販売代理店は建設会社「グロースビュー」(青森県八戸市)と「(株)ミリオン」(神奈川県横須賀市)の2社。グロースビューでは八戸市田向にモデルシェルターを設置し、公開(要予約)している。

 古谷野氏は「日本は核兵器の保有国に囲まれている島国であることを国民一人一人が自覚すべきだと思います。また、南海トラフ地震、首都直下型地震、地震連動型火山の噴火が一度起きれば、今までの平和な日々は一瞬で変わってしまいます」という。

 「それらの事柄から少しでも危機感を持って、大切な命を守ることに意識を切り替えるべきだと思います」と古谷野氏は締めくくった。
 直エンジニアリングの連絡先は0296-35-3785。グロースビューの電話は0178-38-7986。ミリオンの連絡先は070-3359-0021。