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【スピリチュアル・ビートルズ】『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』を観て 全編を貫くテーマ は超越瞑想

映画『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』(9/23(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー ) © B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved
映画『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』(9/23(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー ) © B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

 ドキュメンタリー『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』(2020年カナダ)が日本公開された。一言でいうと、ポール・サルツマン監督のインド再訪版ロードムービーといった体(てい)で、そこに超越瞑想(めいそう)とビートルズが絡んでいる。

 製作総指揮をデビッド・リンチが務めていることもあってか、全編を貫くテーマは超越瞑想である。リンチは『エレファントマン』や『ツインピークス』などで知られる映画監督だが、同時に超越瞑想を普及するためにデビッド・リンチ財団を立ち上げている。

デヴィッド・リンチ © B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved
デヴィッド・リンチ © B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

 超越瞑想とはインド生まれの宗教家マハリシ・マヘーシュ・ヨギが始めた瞑想法。英語のTranscendental Meditationの頭文字をとってTMとして知られる。超越瞑想を習得すると、心の内深くにある穏やかな領域を体験できるといわれる。

 ビートルズがマハリシと出会ったのは1967年。翌年にはインド北部のリシケシュで瞑想修行をすることになるが、そこのアシュラム(僧院)で若きサルツマンは偶然にもビートルズと出会った。彼は人生に行き詰まり、自分の内なる声に導かれ、インドを訪れたのだ。

 瞑想修行の傍ら、サルツマンはビートルズの4人らを撮影する。最も有名なのは4人と彼らのパートナーたち、修行参加者が一堂にそろい、花輪を首にかけ、中心にマハリシがいるカラフルな集合写真だろう。だが、誰が撮影したのか長らく謎だった。

 サルツマンは数々の写真をインドから帰った後、地下室の倉庫に仕舞い込んでいたのだった。32年後、すなわち2000年、娘の一言で思い出し、再び発掘したのだった。そこから貴重な写真たちが世に出ていく。サルツマン初の著書「The Beatles in Rishkesh」(Viking Studio、2000)で写真とともに彼らのインド滞在の詳細が明らかにされた。

 ビートルズのインド訪問から50周年の2018年には記念するイベントが催された。注目されたのはサルツマンが撮ったビートルズ4人の写真だった。同年にはサルツマンの前述の著書の「改訂版」ともいえる「The Beatles in India」(Insight Editions)が出る。ジョージ・ハリスンの妻だったパティが序文、シンガーのドノバンがあとがきを寄せている。

 序文でパティは自分の生い立ち、超越瞑想との出会いなどに時系列で触れているが、最も重要なのはウェールズのバンゴールでの修行中に伝えられたビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインの突然の死の影響だろう。「マハリシは彼ら(ビートルズ)が彼の助けを必要だと思ったのです・・・マハリシは彼らが休止時間をとって次なるステップを見出すようにと、インド行きを勧めたのです」とパティは書いた。

 そのことが「今やブライアンなしで取り残された彼ら(ビートルズ)が、自分たちの人生において仕事において、どのような方向に行きたいのかを省みる助けになったのです。まさにそのような時に私たちはインドに行ったのです」とパティは続けた。

 そしてリシケシュでの時間を「(ビートルズの4人)全員にとって、とても特別な時間で、気が散ることなく、何週間も同じ場所に一緒に居られる機会となりました」とパティはいう。

 そこでの生活が彼らの創造性を高め、多くの楽曲を生むことになったと回想した。

 2021年には英国でドキュメンタリー「ビートルズとインディア(The Beatles and India)」が制作された。2008年出版の『アクロス・ザ・ユニバース:ザ・ビートルズ・イン・インディア』の著者であるアジョイ・ボーズが共同監督。ビートルズとインドの深い関係を追った作品で、日本でも2022年1月にNHK-BS1で放送された。(10月7日にDVDが日本発売予定)。そして今回の『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド(Meeting the Beatles in India)』の日本公開〔配給:ミモザフィルムズ 〕である。

インドでの(写真左から)リンゴ、ジョン、ポール。 © B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved
インドでの(写真左から)リンゴ、ジョン、ポール。 © B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

 ビートルズの4人の精神世界探求の旅が本格的に始まったのはリシケシュでの瞑想修行経験だった。40才で亡くなったジョン・レノンはともかく、ジョージ、ポール・マッカートニー、リンゴ・スターは程度の差こそあれ、超越瞑想に取り組んできた。

 最も深く傾倒したのはジョージだろう。日常生活に超越瞑想を取り入れ、菜食中心の食生活を送ったのはもちろん、超越瞑想の普及にも手を貸した。マハリシは自然法党(Natural Law Party)という政党を結成して、’92年の英国総選挙に出馬したが、その年にジョージは同党を支援するためのコンサートをロンドンで開いた。

(写真左から)ジョージ、シンシアら。 © B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved
(写真左から)ジョージ、シンシアら。 © B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

 健在であるポールとリンゴも、デビッド・リンチ財団を支援し、超越瞑想の普及をサポートしている。2008年2月にマハリシは亡くなるが、その翌年に彼の超越瞑想の学校導入を進めるためのチャリティーコンサート「Change begins within」、訳すと「変化は内側から始まる」とでもいうのか、そのイベントに2人は、ドノバンらとともに参加した。

 コンサートのハイライトは、リシケシュ滞在中にポールが書いたという作品「コスミカリー・コンシャス」で、参加者一同で歌い上げられた。「さあ、ぼくと一緒に宇宙意識になろうよ」と歌われる作品で、瞑想の目的が宇宙意識との同化だというマハリシの教えに基づいている。「純粋意識が自然に定着すると宇宙意識となります。これは座禅でいうところの『悟りの境地』と同じことです」と一般社団法人マハリシ総合教育研究所の鈴木志津夫代表理事。

 鈴木氏によれば、今回ビートルズ映画がやって来たのは、超越瞑想への関心が復活する兆しが出てきているところだったので、まさにグッドタイミングだという。現在、超越瞑想をめぐる機運が高まっている理由は主に3つあると鈴木氏はいう。

 まず、インドでマハリシから超越瞑想を学んだことのあるモディが首相に就き、アーユルベーダ、ヨガ、ナチュロパシーなど自然医学を推進するため新たにアユシュ省を作った。そしてモディの提案によって、国連は6月21日を「国際ヨガの日」としたのである。どちらも2014年のこと。「このことが(瞑想にも)大変な追い風になっている」と鈴木氏。

 鈴木氏は第2の理由としてハリウッドにおける瞑想人気の活性化を挙げた。デビッド・リンチやクリント・イーストウッドをはじめ、ジョージ・ルーカス、レディ・ガガ、ケイティ・ペリーなどがTMを実践しており、大変人気がある、と鈴木氏はいう。「それによって、ここ5年くらい、メディアが活発にTMのことを取り上げている」。

 第3の理由として鈴木氏は「新型コロナウイルスの流行で、世界全体に閉塞感が広がった。ストレスがたまり、外にも出られない。そこから瞑想、ストレスマネジメントが見直されている」と語る。そこにビートルズと瞑想がテーマの映画がやって来たのだという。

 マハリシはビートルズを瞑想の宣伝のために利用したという見方について、鈴木氏は反論する――「ビートルズによってTMが有名になったことは事実ですが、同時にポール、リンゴ、ジョージも瞑想によって恩恵を受けたのです」。

 ポールは2009年の「Change begins within」コンサートの際に語っていた――「クレイジーな60年代(後半)に、自分を安定させる何かを探し求めていた時にちょうど瞑想に出会ったのだ。それ以来、ぼくは40年間、瞑想を続けている。狂乱の真っただ中にあっても、瞑想のおかげで平穏な時間を得られるようになりました」。

 リンゴも「瞑想はマハリシからの贈り物だ。これまで人からもらったものの中で、本当に大切だと思えるものは少ないが、瞑想はその数少ないものの一つだ」と述べた。リンゴは「’92年以来、ほぼ毎日、超越瞑想をやっている」とし、人に薦めたいことだと語っていた、

文・桑原亘之介