おでかけ

鳥になり、羊を食らい、酒と景観に酔った! 【あなただけにそっと教える北海道「空知」の魅力】②

今回の使用機材はASK21という型のグライダー。
今回の使用機材はASK21という型のグライダー。

 北海道旅行の穴場「空知」の魅力を探る旅。連載の第2回目は、中空知~南空知エリアのおすすめポイントを巡っていこう。

風とひとつになる体験はまさに「空知」

 旅に出たら何か忘れられない体験をしたい! そんな人におすすめなのが、滝川市の「たきかわスカイパーク」で行われている『グライダー体験飛行』だ。滝川市は、上昇気流が発生しやすく、航空管制の制約も少ないため、日本中からグライダー愛好者が集まる場所。石狩川河川敷にある「たきかわスカイパーク」は、公園と飛行場の機能を有する日本で最初の本格的航空公園で、50ヘクタールの広大な敷地に滑走路やスカイミュージアム(航空動態博物館)など、さまざまな施設を備えている。

 高いところは得意ではないのだが、せっかくの機会ということで体験飛行を予約しておいた。受け付けをすませて滑走路へ向かい、座席に乗り込む前にパラシュートを装着。人生初のパラシュートだ。意外に重い。操縦席にパイロット、後部座席に体験客の2人乗りで、スリムな機体だから座席は狭い。持ち込みが許されたのはカメラ1台だ。キャノピーを外から閉めてもらい、いざ出発。といっても、今回乗ったグライダーは軽飛行機に引っ張ってもらって離陸する、エンジンのないタイプ。上空で切り離され、上昇気流に乗って大空高く舞い上がっていくのだ。

上空に上がるまでは軽飛行機に引っ張ってもらう。
上空に上がるまでは軽飛行機に引っ張ってもらう。
後部座席にも速度計や高度計、操縦かんまで付いていた。
後部座席にも速度計や高度計、操縦かんまで付いていた。

 離陸後、上空約1,500フィート(450m)に達したところで軽飛行機から切り離され、滑空開始だ。エンジンがないからとても静かで、聞こえるのは風を切る音だけ。鳥になったように、眼下に広がる北海道の大地を眺めることができる。ときどき体がふわっと浮く感じが気持ちいい。初めて空を知った気分で、これぞまさに「空知」体験だ! 気分はもう『トップガン』!?

 パイロットの平林敦雄さんに「どこか見たいですか」と聞かれるが、土地勘がないので「おまかせします」と答えると、平林さんは国道12号線の日本一長い直線道路を空から見せてくれた。条件が良ければ、遠くに札幌ドームや大雪山が見えることもあるそうだ。

日本一長い直線道路は空から見ると本当にまっすぐだった。
日本一長い直線道路は空から見ると本当にまっすぐだった。

 上昇気流があれば、2,000フィート(600m)までは上がって行くが、この日の上昇気流はいま一つだとか。「上昇気流なんて目に見えるの?」と思ったら、雲の形や地形、あるいは体感で判断するそうだ。10分間のフライトはあっという間に終了。なぜか怖さはまったく感じなかった。

グライダーの格納庫と博物館を兼ねたスカイミュージアム(航空動態博物館)。
グライダーの格納庫と博物館を兼ねたスカイミュージアム(航空動態博物館)。
スカイミュージアムの中にはプライマリーグライダーと呼ばれる古い機体も展示されていた。
スカイミュージアムの中にはプライマリーグライダーと呼ばれる古い機体も展示されていた。

 体験搭乗のシーズンは4月中旬~11月中旬。事前の予約が必要で、費用は8,000円(小・中・高校生は4,500円)。スケジュールの確認や申し込みは滝川スカイスポーツ振興協会(0125-24-3255)まで。

羊肉が苦手な人にも試してほしいジンギスカン

滝川市にある松尾ジンギスカン本店。
滝川市にある松尾ジンギスカン本店。

 グライダーに乗ったらお腹がすいてきた。滝川市で食事をするなら、何はともあれ「ジンギスカン」だ。北海道の代表的な郷土料理ジンギスカンは、地域によって食べ方が異なり、焼いた羊肉にタレを付けて食べる「札幌式」と、タレに漬け込んだ羊肉を焼いて食べる「滝川式」がある。せっかく滝川市に来たのだから、滝川式の味付きジンギスカンを味わいたい。滝川市にはいくつか有名店があるが、どうせならそれを普及させた老舗「松尾ジンギスカン」 の本店に行ってみようではないか。

 お昼時だったので、注文したのは「特上ラムランチ」(1,780円)。メニューの分類は、ラムが若い羊、マトンが親羊。「特上」「上」は脂の少ないもも肉、ただのラムやマトンは脂身のある肩肉である。ちなみに、ロースというのは厚切りにして食べ応えのある肉だとか。食べ慣れている人は風味のある脂身の部分を好むらしいが、初めての人には癖がなく柔らかい「特上ラム」がおすすめだそうだ。

 同社の一番のこだわりは、肉を漬け込むタレ。羊肉の独特の臭みを消すために使われがちな「生ニンニク」を使っていない。子どもからお年寄りまであらゆる世代に食べてほしいという創始者の思いからだ。1956年の創業以来材料を変えておらず、当時、滝川の特産物だったリンゴとタマネギをベースに、ショウガとしょうゆ、秘伝の香辛料を加えている。自然の甘みと酸味にこだわって熱処理を一切していないフレッシュな「生タレ」は、日持ちしないので作るのが大変だが、肉をおいしく柔らかくしてくれるという。

「特上ラムランチ」(1,780円)。写真の肉と野菜は3人前。
「特上ラムランチ」(1,780円)。写真の肉と野菜は3人前。
松尾ジンギスカンの6代目の鍋。
松尾ジンギスカンの6代目の鍋。

 調理する鍋にも相当こだわっていて、今年4月に25年ぶりにデザイン変更した6代目。南部鉄器の特注品だ。野菜をタレで煮込めるように、周囲のくぼんだ部分が従来より幅広になった。中央の山の部分では焼肉、その周りでは野菜たっぷりの鍋料理が同時に調理できるのだ。

羊の肉はヘルシーミート。低カロリーで、必須アミノ酸や鉄分、ビタミンが豊富に含まれているのだ。
羊の肉はヘルシーミート。低カロリーで、必須アミノ酸や鉄分、ビタミンが豊富に含まれているのだ。

 さて、お味の方はもちろん最高である。肉は柔らかく、さっぱりとした甘みが染みていてクセも少なく食べやすい。あまりにも食べやすくて、つい食べ過ぎてしまいそうだ。これなら今までジンギスカンを敬遠していた人でも抵抗なく食べられるのではないだろうか。初心者は「特上ラム」を選ぶことをお忘れなく。

歴史的建造物と銘酒に酔いしれる

酒蔵への入口もレンガ造り。
酒蔵への入口もレンガ造り。

 日本酒が好きな人、日本の古き良き時代の雰囲気が好きな人なら興奮してしまいそうな場所が、南空知の夕張郡栗山町にある「小林酒造」 だ。明治11年(1878年)に札幌で創業した老舗の酒蔵で、日本酒造りに適した水と環境を求めて明治33年(1900年)にこの地へ移ってきた。その敷地はなんと約1万坪。球場並みの広さである。

中庭には、寒い北海道では酒造りに欠かせなかったボイラーが。
中庭には、寒い北海道では酒造りに欠かせなかったボイラーが。

 こちらの特徴は、造り酒屋としては極めて珍しい西洋建築を取り入れたレンガ蔵と札幌軟石を使った石蔵の景観。一級の歴史的建造物として認定され、国の登録有形文化財になっているというだけあって実に見事だ。建物を眺めに訪れるだけでも十分に価値はあるが、観光客に向けて用意されたさまざまなサービスがまた充実している。

昔、お酒を運ぶのに使っていたトロッコの線路が残っている。
昔、お酒を運ぶのに使っていたトロッコの線路が残っている。

 実は、10人以上の団体であれば酒蔵の中をガイド付きで見学が可能(毎年5月~9月末まで)。しかも料金は無料。ただし5日前までの事前予約(北の錦記念館 0123-76-9292 )が必要だ。氷温貯蔵庫、お米を蒸し揚げる甑(こしき)、こうじを作る製麹(せいぎく)室、昔お酒を絞るのに使った槽(ふね)など珍しいものも見ることができる。酒好きなら10人を集めてぜひ訪れよう。また、敷地内には明治30年(1897年)に建てられ、歴代社長が暮らしてきた「小林家」があり、ここも前日までの予約で見学が可能。有料(1人1,000円)だが、こちらは1人から受け付けOK。明治~昭和期を描いた朝ドラにでもでてきそうな部屋が23もあり、見学には1時間以上かかるそうだ。小林家にはカフェもあり、こちらは予約不要。

熟成蔵が並ぶ先には大吟醸や純米大吟醸を保管する氷温貯蔵庫が。
熟成蔵が並ぶ先には大吟醸や純米大吟醸を保管する氷温貯蔵庫が。
昔、お酒を絞るのに使っていた槽という珍しい設備も見学用に残している。
昔、お酒を絞るのに使っていた槽という珍しい設備も見学用に残している。

 旧本社事務所だった「北の錦記念館」には、同社にまつわる歴史的な品々が展示され、こちらは無料で見学可能。住込みで働いていた蔵人さんたちの荷物や旧社長室、酒造りの打ち上げ「甑倒し」を行った宴会場など、なかなか興味深い。1階ではお酒の試飲や販売も行われ、特約店限定販売の『冬花火』やフランスの賞を受賞した『扇』など特徴ある商品が多数。ここでしか買えない蔵元限定品もあって、日本酒好きにはたまらないはず。

「北の錦記念館」。
「北の錦記念館」。
住み込みで働いていた蔵人さんたちの荷物が展示されていた。
住み込みで働いていた蔵人さんたちの荷物が展示されていた。
1階のショップにはなかなか買えないお酒がいろいろ。
1階のショップにはなかなか買えないお酒がいろいろ。

 一通り見学を終えたら、敷地内のおそば屋さん「錦水庵」で本格手打ちそばをいただくのもおすすめだ。ちなみに、小林酒造がいま目指しているのは、食事をしながら飲む食中酒としておいしいお酒だそうだ。

「小林家」の入口。
「小林家」の入口。
「錦水庵」のおそばもおいしかった。
「錦水庵」のおそばもおいしかった。

映画の中に入り込んだかのようなすてきなワイナリー

「宝水ワイナリー」のブドウ畑。
「宝水ワイナリー」のブドウ畑。

 お酒といえば、空知ではワインづくりも盛んだ。空知管内には7つのワイナリーと数多くのヴィンヤード(農園)があり、北海道でも指折りのワイン産地になっている。今回は、岩見沢市にある「宝水ワイナリー」 を訪ねてみた。道道30号線を岩見沢から三笠方面に向かう途中の左手、小高いなだらかな斜面の一画にブドウ畑が広がっている。そこに向かって脇道を入っていくと山小屋のような木造の建物が。そこが宝水ワイナリーだ。

 同社は2004年に設立され、2006年にワインの出荷を開始。2008年に自社畑ブドウを使用した「RICCA」シリーズの“バッカス”が国産ワインコンクールで銅賞を受賞。それを機に名前が知られるようになり、2013年には人気ワイン漫画「神の雫」で「RICCA雪の系譜シャルドネ」が紹介され、評価が高まった。約9ヘクタールの畑で現在栽培している品種は、赤ブドウがレンベルガー、ピノ・ノワール、レゲント、アルモノワール、白ブドウがシャルドネ、バッカス、ケルナーなどだ。

映画『ぶどうのなみだ』にも出てきた宝水ワイナリーの建物。
映画『ぶどうのなみだ』にも出てきた宝水ワイナリーの建物。
2階の部屋も映画『ぶどうのなみだ』で使われた。壁には監督などのサインが。
2階の部屋も映画『ぶどうのなみだ』で使われた。壁には監督などのサインが。

 ブドウ畑というのは景観が良いところが多いが、こちらの風景も素晴らしい。入り口の風車や木造の建物も実に味がある。このロッジのような建物は、小樽の造船所で鉄工所として使われていた建物を解体して移築したもので、費用が総額6千万円かかったとか。このワイナリーは、大泉洋・染谷将太らが主演した『ぶどうのなみだ』(2014)という映画のロケ地にもなり、ブドウ畑や建物の中が撮影に使われた。映像が美しい大人の童話のような映画だったが、映画を見て、日本はもちろん台湾・香港・シンガポールなど海外からも観光客が訪れたそうだ。ワイナリー2階の壁には出演者らのサインが今も残されていた。

 1階には自社ワインや小物を売るショップがあり、ここだけでしか買えない限定ワインを出すこともあるそう。3種類買って自宅で飲んだが、どれもクセや個性は強くない。「爽やかで飲みやすい」という評判どおりの味だった。遠くからわざわざ買いに来るファンがいるというのもうなずける。ほとんどのワインはワイナリーのオンラインショップでも購入可能だ。

宝水ワイナリーのワイン。自社畑ブドウを使用した「RICCA」シリーズのほか、他の農場で採れたブドウで作ったワインもある。
宝水ワイナリーのワイン。自社畑ブドウを使用した「RICCA」シリーズのほか、他の農場で採れたブドウで作ったワインもある。

 敷地内には、ソフトクリームを販売する「ヴィアグレスト」という小さな小屋(冬季は休業)もある。自社畑のブドウを使ったソースをかけたソフトクリームが好評とのことだったが、スケジュールが押してしまって食べる時間がなかったのは、今回の旅で最も痛恨の出来事だった。