カルチャー

技術を追いかけて人間らしさがダサく思えてきたら・・・ 開発ユニット【「AR三兄弟」長男・川田十夢さんに聞く】(下)

「イノフェス2022」における川田十夢さん。 Photo By アンザイミキ
「イノフェス2022」における川田十夢さん。 Photo By アンザイミキ

 「技術を突き詰めていくうちに、人間らしさがダサく見えてきたら、“寅さん映画”として知られる『男はつらいよ』シリーズを観ます」—―開発ユニット「AR三兄弟」長男の川田十夢(かわだ。・とむ)さんは、そう打ち明ける。
 「技術にかぶれないためにどうしたらいいのだろうか? 技術的なことを追いかけていると、人間らしさがダサく思えてきます。そこで原点回帰するために“寅さん”を見直したら、ぐっときたのです。人肌感覚というのでしょうか」と川田さんはいう。
 川田さんは、沢田研二が出演し、田中裕子がマドンナを務めた第30作『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』と、長渕剛が出演し、マドンナに志穂美悦子を迎えた第37作『男はつらいよ 幸福の青い鳥』がお気に入りだという。どちらの男女も後に結ばれている。
 そして、川田さんが一番好きなのは、2019年公開の第50作『男はつらいよ お帰り寅さん』なのだという。新しく撮影された登場人物の「今」を描く映像と4Kデジタル修復されて蘇る寅さんシリーズの映像が紡ぎ合う、新たなる物語だ。
 「山田洋次監督は(寅さん映画の中で)その土地土地のモノ、例えばお祭りなどを、フィルムに残そうという気持ちがあったのではないかと思います」と川田さん。

日本の土着的なお祭りを3Dで保存

 川田さんも新しい技術を用いて、日本の土着的なお祭りを記録する取り組みを進めている。「『フォトグラメトリ』という手法を用いて、土着的なお祭りを3Dモデルで保存して、その動きを記録しておくことをやっています」と川田さんは語る。
 「フォトグラメトリ」とは、物体をさまざまな方向から撮影した写真をコンピューターで解析して、3Dモデルを立ち上げる技術のこと。
 川田さんはいう。「映画は当時の最新の技術だった。僕も(いまの最新技術で)伝統芸能をしっかりと残したいと思う。残したうえで、現代の芸能との接点を探りたい」
 さらに現在の取り組みとして、川田さんは語った。
 「日本の歴史を立体的に見せるのは大変なので、(技術の力で)すごく長い“パレード”にして、目で見て、耳で聞いて、体験してもらえるようにします。令和、江戸時代、鎌倉時代後期をつないでみようと思います」
 「そこには源義経とかも入れたりしてね。時代やジャンルを超えたものを、テクノロジーを使って入れていきたい。現代絵巻のようになるだろう(その“パレード”ができるのは、)来年5月くらいになるのではないか」と川田さんは述べた。
 川田さんは手塚治虫のライフワーク「火の鳥」のファンでもある。「なめくじのような生物が進化していく話や、ロボットが自殺する話などがとりわけ印象に残っています」川田さんは「火の鳥」とは「宇宙そのものでありながら、それを内包する魂のパッケージ」(川田十夢著「拡張現実的」東京ニュース通信社)だという。

崩壊の一途を辿るメディアにAIを

 川田さんはメディアにも一家言を持つ。新聞や雑誌などの紙メディアは「崩壊の一途を辿っています。文化・文明が終わる時はこういう時なのではないでしょうか。新聞もテレビも一回、終るのではないか」と川田さんは悲観的だ。
 だが、川田さんは続けて、「もし(既存のメディアが)生き返る手段があるとしたら、ラボを持つことです。例えば、ニューヨーク・タイムズはラボを持っていて、その活かし方がすごいのです。台風があった時には、フォトグラメトリという手法で、崩壊した街をすべて保存して、スマホで見られるようにしました」と語る。
 「そういう取り組みが、デジタルへの呼び水になっています」
 「紙で読むというのは、ある年代より下はしません。若い世代に訴えないと生き残れません。そのためにはラボを作らないといけないと思います」と川田さん。
 川田さんは続けていう。「発行部数が減っても、紙媒体は残るかもしれない。でも、ある世代より下は手に取らない。紙プラス最新のモノというのが理想だが、メディアは努力を怠ってきた。メディアは『扱ってやっている』という上から目線になっている」。
 「メディア企業自身が、新しいメディアを創ろうという意識がないのだと思います。開発セクションを作らないとだめです。今、新聞がやった方がいいと思うのは、要約エンジンを入れること。1000文字で記事を伝えられたり、3行でも記事を伝えられたりします。そして子ども、女性など受け取り手のことを考えます」と川田さんは提案する。
 「AIを入れて、メディアの伝え方を変えるのは面白いと思う」。

大人の物語としての「テクノロジー寅さん」

 川田さんは、「新聞記事を読むというのはファクトチェックの意味があります。でもファクトチェックだけのメディアでは面白くない。そこでファクトチェックのサービスを提供したらいい。いついつの何は本当ですよ、というのを出したら人気が出そう」だという。
 川田さん自身、朝日新聞のサブスクにお金を払っているが、「実際のところ、ファクトチェックにしか使えていません」という。「単に会員にPDFとして配るのではなくて、サブスクでファクトチェックのサービスをやればいい」と川田さんは続けた。
 いま流行りのDX(デジタルトランスフォーメーション)についても川田さんは一言ある。「DXといっても、単に効率化の意味でしか使っていないのではないか。日本の企業や表現者は培ってきたものをデジタルとして売り物にすることが大事だと思います」。
 AIの進化はすごくて、「プロンプトエンジニアリング」という技術を使うと、言葉を渡すとすぐに絵にしてくれるという。「3年後、それがスマホで出来るようになると思います」。
 技術を追いかけていくと、寅さんに回帰する川田さん。
 「いつか“テクノロジー寅さん”みたいなものを書きたいと思っています。大人の物語として」