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あなたもヌーベルバーグの巨匠ゴダールを体験しませんか? 2月10日から東京日仏学院エスパス・イマージュで上映会

『女と男のいる舗道』ⓒ1962、LES FILMS DE LA PLEIADE、Paris
『女と男のいる舗道』ⓒ1962、LES FILMS DE LA PLEIADE、Paris

 ヌーベルバーグの巨匠ジャン=リュック・ゴダールの世界にふれるチャンスだ。『勝手にしやがれ』、『気狂いピエロ』、『女と男のいる舗道』などの代表作、『私は黒人』などゴダールが愛した作品、そしてゴダールが出演した『パリはわれらのもの』が2月10日(金)から12日(日)、17日(金)から19日(日)まで東京日仏学院エスパス・イマージュ(東京都新宿区市谷船河原町15)で上映される。
 全席自由。料金は一律1000円。問い合わせは電話03-5206-2500まで。

 2022年9月13日、ゴダールが亡くなった。91歳だった。フランソワ・トリュフォーが亡くなったとき、ゴダールは、2人の間に激しい意見の相違があったにもかかわらず、「フランソワは私たちを守ってくれた」と記した。「彼のおかげで、私たちはヌーベルバーグの悪口をあまり言わずに済んだ」と。

 それから40年近く経ち、ゴダールが絶対的な盾となったのは、芸術としての映画という理念そのものだ。彼がいない今日の映画は脆(もろ)くなってしまうのか、頭(こうべ)を垂れるよりも、まずはゴダールを体験してみようという趣旨のイベントである。

『勝手にしやがれ』©1960 STUDIOCANAL – Société Nouvelle de Cinématographie – ALL RIGHTS RESERVED.
『勝手にしやがれ』©1960 STUDIOCANAL – Société Nouvelle de Cinématographie – ALL RIGHTS RESERVED.

 人生と同じように、無頓着に飛び込んでいこう、ゴダールが遺した比類なき作品たちはそう私たちを誘っているではないか。まずは初期の作品から、そして彼の声を聞き、彼の愛した作品たちも発見してみよう!
 上映作品は次の通り。

 ◆ゴダールが監督した作品たち

〇『勝手にしやがれ』(1960年/フランス/90分/モノクロ/4Kレストア版)——大きめなスーツの中に体を浮かばせ、軽やかに、滑るように歩くジャン=ポール・ベルモンドや、感情の変化とともに微妙に揺れ動き、海のように深いジーン・セバーグの瞳。まさにラブ・ストーリーを戦争ドキュメンタリーのように撮りたいと願っていたゴダールは、元戦場カメラマン、ラウル・クタールと出会い、映画史上もっとも有名な監督と撮影監督のタンデムがここに始まる。(2月10日―16:45、2月11日―14:45)

〇『気狂いピエロ』(1965年/フランス/110分/カラー/2Kレストア版)——ゴダールは1960年代、8年間で15本の映画を途切れることなく撮り続け、フォルムを、主題を、そして弁証法的なテーマ(男性と女性、忠誠と裏切り、芸術と金銭、影と光など)を実践の中で見出していく。そしてこの時代の集大成となったのが驚くべき映像と音響、映画的、絵画的、文学的な引用を激烈なる発作のように絶頂にまで押し上げた絶対的傑作こそが『気狂いピエロ』だ。(2月10日―19:00、2月12日―14:30)

〇『女は女である』(1961年/フランス=イタリア/84分/カラー)——キャバレーの踊り子アンジェラは、今すぐにでも子どもが欲しいと思っている。しかし、恋人のエミールはそんな彼女に戸惑いを隠せない。そんな最中、アンジェラに思いを寄せていた青年アルフレッドが現れる。“登場人物が歌わないミュージカル・コメディー”。名作曲家ミシェル・ルグランが音楽を担当。「トリフォーにとっての『突然炎のごとく』と同様、これがぼくの本当のデビュー作だ」―ゴダール。(2月19日―17:00)

〇『女と男のいる舗道』(1962年/フランス/84分/モノクロ/4Kレストア版)——ゴダールの妻アンナ・カリーナ=ナナを見つめる視線、横顔、楕円形の輪郭、唇まで煙草を持っていくその手、短めに切られた髪がカーブを描くその首。彼女は物思いにふけり、悲しそうで、そして少しふてくされながら、気付いている——「いつか二人の間の愛が消えていくことを。しかし、感情の微妙なる動きが刻まれたこの瞬間は決して消えないことを」。(2月17日―19:00)

〇『パリところどころ…』(1965年/フランス/97分/カラー)——6人の監督がパリの街を題材に、そこに暮らす人々のさまざまな姿を描く全6話から成るオムニバス映画。それぞれの監督のタッチ、テーマの違いが見えてくる貴重な作品。ゴダールは第5話『モンパルナスとルヴァロワ』を監督。撮影はゴダールが「アメリカで最高のカメラマン」と評したアルバート・メイスルズ。2人の男に封筒を取り違えて速達を出してしまった女性が、双方からフラれてしまうまでを描いている。(2月18日―17:00)

 ◆ゴダールが愛した作品たち

〇『私は黒人』(1958年/フランス/80分/カラー)——ニジェール出身の3人の青年と1人の女が仕事を探しにコートジボアールにやってくる。憧れのアメリカの俳優エドワード・G・ロビンソンを自称する主人公によってその体験が語られる。「最も大胆でありながらも慎みに満ちた作品だ。ここには真実がある」―ゴダール。(2月12日―11:30、2月18日―13:45―上映後、須藤健太郎氏によるレクチャー「ゴダールとシネマ=ヴェリテ」あり、2月19日―11:45))

〇『墜ちた天使』(1945年/アメリカ/98分/モノクロ)——食堂のウエートレスに一目ぼれした詐欺師は、彼女と一緒になるカネを得るために資産家の娘と結婚するが・・・。田舎道の暗さ、町外れの食堂の明かりなど、光と影を多用したカメラ・ワークが素晴らしい傑作。「映画=シネマというものはもともと犯罪映画=フィルム・ポリシエのことである」―ゴダール。(2月11日―11:15、2月12日―17:00)

 ◆ゴダール出演作

〇『パリはわれらのもの』(1961年/フランス/137分/モノクロ)——パリに来た女学生アンヌは演劇グループに参加するが、若いボヘミアンたちの周囲に見え隠れする謎の組織による陰謀にやがて巻き込まれていくことになる。リベットが生涯探究し続けた「演じること」と「都市の陰謀」のテーマが描かれた傑作。ゴダールはジャック・ドゥミらとともに友情出演、その年の「カイエ・デュ・シネマ」年間ベストテンで4位に選出されている。(2月17日―16:00)

 ◆映画のアトリエ

〇第1回「ゴダールとその批評」——ゴダールの批評を読み、そして作品の抜粋を見ながら、その出発点を確認する。(2月11日―17:00~18:30、講師:坂本安美、料金1500円、申し込みはアンスティチュ・フランセ東京HPから)

 ゴダールは1930年、パリ生まれ。映画批評家としてスタートしたが、後に『勝手にしやがれ』(1960)などの作品でトリュフォーやクロード・シャブロルと並ぶヌーベルバーグの旗手と見なされるようになる。しかし、1967年、アメリカ映画が世界を席巻することに反発し、商業映画との決別を宣言する。商業映画への復帰はその12年後、『勝手に逃げろ/人生』の制作によってであった。1990年代は世界の映画の歴史を振り返る『ゴダールの映画史』の製作に力を注ぐ。日本の溝口健二、小津安二郎、大島渚、勅使河原宏らも参照されている。

 独特なカメラ・ワークや編集技法によって映像表現の世界に革命をもたらした。彼が手がけた作品の多さと注目度の高さなどから20世紀の最も重要な映画監督の1人と見なされている。2002年、日本の高松宮殿下記念世界文化賞受賞。2010年、アカデミー名誉賞を受賞。
 ゴダールはスイスで合法化されている「自殺ほう助」による安楽死を選んだとされる。