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「続けることで夢はかなう」―クリエイターを目指す若者に漫画家・桃川ゆきのさんもエール 上月財団の「クリエイター育成事業」、今年度助成対象者30人を決定

実技審査の様子
実技審査の様子

 デジタルアーティスト・イラストレーター・漫画家などを目指す若者の活動費を支援する「クリエイター育成事業」を毎年行っている一般財団法人 上月財団(東京)。今年で19回目を迎える同事業の助成対象者最終選考会を、このほど東京都内で行った。同事業は、15歳から25歳ぐらいの若手クリエイターが対象。年間60万円の助成金を交付し、創作活動に役立ててもらう。04年の事業開始以来、延べ約610人が助成を受け、現在多くがクリエイターとして第一線で活躍している。

 現在助成を受けている東京藝術大学の白川深紅さんが柔道をテーマに描いた作品は、第36回皇后盃全日本女子柔道選手権大会のプログラム表紙に採用された。助成後の活躍としては、漫画家・あずみきしさんが、死後の世界を舞台に生きざまを描いた「死役所」(月刊コミックバンチ・新潮社で2013年11月号から連載中)が大きな反響を呼び、2019年にテレビドラマ化された。藤村緋二さん作画の「神さまの言うとおり」(別冊少年マガジン・講談社で連載)は衝撃的な展開が話題となり、2014年に映画が公開された。

 助成対象者は毎年、2~5月の募集期間、6月の一次選考(作品選考)、7月の二次選考(実技審査・面接)と、クリエイターの分野に精通したプロによる厳正な選考を経て決定される。この二次(最終)選考が7月27日、東京都内で行われ、30人が選出された。この日は、同事業の支援を受けて制作活動を行いプロデビューした漫画家・桃川ゆきのさんの対談も行われた。

 桃川さんは、成安造形大学(大津市)の3年在学時、2018年度の助成対象者になった。小学生の頃から絵を描くのが好きで漫画家へのあこがれを持ち、周囲となじみにくかった中学時代も絵を描く楽しみに支えられたという。高校時代には、少女漫画雑誌への投稿や出版社への持ち込みなどに取り組むほか、絵本やゲームの作成、似顔絵描きのアルバイトなど、多彩な制作活動を行い、版画の全国大会に出場したことも。大学ではイラストレーションを専門に学び、コンビニエンスストアや似顔絵描きのアルバイトで画材費などを捻出。そんな中、2年時の終わりに、同事業の助成を受けて活動している先輩学生から応募を勧められたという。

 一次選考を突破、二次選考の当日は「めちゃくちゃ緊張しました」という桃川さん。実技審査の作品を書いている途中に呼ばれて向かった面接では、頭が真っ白に。しかし、選考委員の漫画家・くらもちふさこさんから「このまま漫画を描き続けていけば必ず夢はかなうから頑張って」と声をかけられた。その時、「選考に受かっても落ちても、これからの制作活動の大きな支えになると感激しました」と振り返る。選考会場で知り合った同じ地方に住む仲間と交流を続け、イラスト教室の講師のアルバイトをしたこともあるという。助成を受けて漫画を描くためのソフトも新調。作業効率が格段に上がった。現在は北陸地方の出身地に戻り、少女漫画雑誌の連載やコーナー担当、児童書の漫画や挿絵などで活躍している。

 桃川さんは、選考受験者たちに「漫画などの仕事には“不安定”というイメージを持たれがちですが、働き方や仕事内容の幅もさまざま。生活を支える仕事にすることができます。いろいろなことに関心を持って体験してみて、いろいろな道に進んでいる自分をイメージしてみてください。私が小学生の頃から漫画を通してSNSなどでつながってきた仲間は、みんな漫画家になるという夢をかなえています。続ければ夢はかなうし、続けなければかないません。悩むことや大変なことがあっても、あきらめないで続けることが大事だと思います」とエールを送った。

助成選考を受けた後輩たちに体験談を話す桃川さん(手前)
助成選考を受けた後輩たちに体験談を話す桃川さん(手前)

 なお、9月4日まで東京スカイツリータウンで開催中の「大昆虫展」(大昆虫展実行委員会主催)には、桃川さんなどこの育成事業の助成を受け、現在活躍中のクリエイターが昆虫を描いた作品が掲示されるほか、ポストカードの無料配布も行っている。